具注暦の年代同定


       これまで不完全な具注暦の年代同定を行う為には、具注暦の詳しい暦の知識と内田正男著「日本暦日原典」を端から端まで人手で検索する必要がありました。しかし、和暦の検索機能を使えば人手での検索作業は省かれるものと思います。また和暦の具注暦は今までの万年暦に無い、それぞれの暦法で計算した月相(上弦、望、下弦)の情報があるので同定の要素が増えます。



    1.最古の具注暦 奈良県石神遺跡出土具注暦木簡

       2002年に発掘され、2003年春に発表された木板に書かれた具中暦。これが和暦の開発動機でもありました。

      年代同定の手順はまず発見された具注暦から特定できそうな語句を拾い検索にかけます。 表面から始めると適当な検索語句は以下です。
        1)辛酉 破 上弦     (上弦は月が上弦の日、旧暦7日頃)
        2)壬戌 破 三月節    (三月節は節気が「清明」の日)
       これらをキーワードにして1) 2)別々に和暦検索で検索し、エクセルで結果を合わせてユリウス日で日付順にソートしたものが以下です。
        表面の結果
      この中で1)及び2)の条件で検索した結果の日付が連続しているのは持統天皇3年3月(689年)と延徳2年3月(1490年)の2年。したがってこの2年が候補となります。

      次に裏面に行くと適当な検索語句は以下です。
        1)戊戌 執 望     (望は月が満月日、旧暦15日頃)
        2)己亥 破 往亡    (往亡は暦注の一つ、節からの日付で決まる)
       表と同じく、これらをキーワードにして1) 2)別々に和暦検索で検索し、エクセルで結果を合わせてユリウス日で日付順にソートしたものが以下です。
        裏面の結果
       この中で1)及び2)の条件で日付が連続しているのは持統天皇3年4月(689年)のみです。

       また、表面と裏面は同年代の暦と推定されるので、結論として表面は持統天皇3年3月(689年)、裏面は同4月の暦と同定できます。

      <参考文献> 奈良文化財研究所 紀要(2003) II-3 飛鳥地域等の調査

       (2007/09/21 記載)



    2.東京天文台の具注暦断簡

      具注暦(水左記 康平七年春夏 書陵部蔵複製)

       具注暦は貴族/役所のカレンダーとして半年分づつ上下2巻の巻物として作られ使われました。しかし日記として書き込まれたものを除いて大部分はその要がなくなるとバラバラにされ裏を用紙として使われたり、他の文書の補強として使われたりしました。そうした部分的にしか残っていない具中暦を「具注暦断簡」と呼んでいます。その典型的なものが以下のWEBで展示されている東京天文台の正中3年(1326年)具注暦断簡です。



      東京天文台の具注暦断簡
       年代同定の手順は石神遺跡の木簡と同じで具注暦から特定できそうな語句を拾い検索にかけます。 拡大写真から見ると適当な検索語句は以下です。
        1)十四日 戊子 火 危 小満 四月中
       これらをキーワードにして和暦検索で検索すると嘉暦元年(1326年)のみです。尚、嘉暦元年は4月26日からなので正確には正中3年(1326年)の暦と同定できます。

       また具注暦で1326年を見ると翌日の四月十五日は「望」(満月)に当たっており具注暦の写真とも良く合います。

       (2007/10/6 記載)