符天暦により造暦された七曜暦の月の解析結果



 現在唯一残る室町後期・明応年間(1492~1501)の七曜暦が符天暦で造暦されていることを発見し,2020年11月発行の日本数学史学会の会誌「数学史研究」(237号)にて論説を発表した。その月の解析の概要を以下に示す。

月の暦数の解析
 表1に明応6年(1497)1月1日から1月15日までの月の夜半の位置情報をもとに解析した結果を示す。まず七曜暦から月の宿度を読み取り,黄経度(項目A)を計算した。次に翌日の黄経度との差から月の1日当たりの速度(項目B)を計算した。さらに速度の差を求めることにより1日当たりの加速度(項目C)を求めた。項目Cにより加速度が定常状態では±0.2314程度の定数である。これにより月の平均黄経度からの変化分は『符天暦日躔差立成』と同様に2次式であることが判明した。

 月の速度の変化分置から逆算すると「太陰躔差立成」の式は以下となり,『符天暦日躔差立成』と同様に相減相乗法が使われていることが判明した。
  月の変動分・躔差(度) = m ×(124 - m) / 700 : mは限数(符天暦は1日9限だったことも判明)

 この月の変動分・躔差(度)を計算した,『明応暦』太陰躔差立成を表2に示す。この立成は実質,『符天暦日躔差立成』に対応する『符天暦太陰躔差立成』である。なお表1の[項目G]の速度変化分をグラフ化すると図1のように速度が直線的に変化しているのが分かる。このグラフの傾きが加速度=±0.2314(度/日)である。

 表1 明応6年1月1日から15日までの夜半の月の位置の解析結果
明応六年(1497)七曜暦
(記載値)
宿経度 黄経度 速度 加速度 限数 象限 躔差
(表2)
平均経度 平均速度 速度
変化分
干支 宿 A=宿度
+宿経度
B
=A2-A1
C
=B2-B1
D E
=A-D
F
=E2-E1
G=B
-13.37
1 1 甲辰 5 6 34 68 325.69 332.0368 0.0000 0.0000 50 疾初 50 5.2857 326.7511
1 2 乙巳 6 1 87 29 343.69 345.5629 13.5261 0.0000 59 疾初 59 5.4786 340.0843 13.3332 0.1561
1 3 丙午 6 15 20 43 343.69 358.8943 13.3314 -0.1947 68 疾末 56 5.4400 353.4543 13.3700 -0.0386
1 4 丁未 8 1 30 43 5.44 6.7443 13.1000 -0.2314 77 疾末 47 5.1700 1.5743 13.3700 -0.2700
1 5 戊申 8 14 17 29 5.44 19.6129 12.8686 -0.2314 86 疾末 38 4.6686 14.9443 13.3700 -0.5014
1 6 己酉 9 9 31 0 22.94 32.2500 12.6371 -0.2315 95 疾末 29 3.9357 28.3143 13.3700 -0.7329
1 7 庚戌 10 8 71 57 35.94 44.6557 12.4057 -0.2314 104 疾末 20 2.9714 41.6843 13.3700 -0.9643
1 8 辛亥 11 6 39 0 50.44 56.8300 12.1743 -0.2314 113 疾末 11 1.7757 55.0543 13.3700 -1.1957
1 9 壬子 12 7 33 29 61.44 68.7729 11.9429 -0.2314 122 疾末 2 0.3486 68.4243 13.3700 -1.4271
1 10 癸丑 14 2 18 43 78.44 80.6243 11.8514 -0.0915 131 遅初 7 -1.1700 81.7943 13.3700 -1.5186
1 11 甲寅 15 5 25 57 87.44 92.6957 12.0714 0.2200 140 遅初 16 -2.4686 95.1643 13.3700 -1.2986
1 12 乙卯 15 17 55 85 87.44 104.9985 12.3028 0.2314 149 遅初 25 -3.5357 108.5342 13.3699 -1.0672
1 13 丙辰 16 0 9 27 117.44 117.5327 12.5342 0.2314 158 遅初 34 -4.3714 121.9041 13.3699 -0.8358
1 14 丁巳 17 9 85 81 120.44 130.2981 12.7654 0.2312 167 遅初 43 -4.9757 135.2738 13.3697 -0.6046
1 15 戊午 19 1 85 57 141.44 143.2957 12.9976 0.2322 176 遅初 52 -5.3486 148.6443 13.3705 -0.3724
注:明応六年七陽暦1月1日には「疾初五十」,1月2日には「疾初五十九」の記載がある。
  宿経度(中国度)については数学史学会の会誌「数学史研究」(237号)p.19附表ー1を参照のこと。
  なお,この部分の七曜暦については「数学史研究」(237号)p.3に複写史料を掲載している。

図1 明応6年1月から4月末迄の月の速度変化分 (表1での項目G)

 

表2 『明応暦』太陰躔差立成 (『符天暦太陰躔差立成』)
限数 遅疾積度 限数 遅疾積度
①疾初(+)
②疾末(+)
③遅初(-)
④遅末(-)
0 0.0000 ①疾初(+)
②疾末(+)
③遅初(-)
④遅末(-)
32 4.2057
1 0.1757 33 4.2900
2 0.3486 34 4.3714
3 0.5186 35 4.4500
4 0.6857 36 4.5257
5 0.8500 37 4.5986
6 1.0114 38 4.6686
7 1.1700 39 4.7357
8 1.3257 40 4.8000
9 1.4786 41 4.8614
10 1.6286 42 4.9200
11 1.7757 43 4.9757
12 1.9200 44 5.0286
13 2.0614 45 5.0786
14 2.2000 46 5.1257
15 2.3357 47 5.1700
16 2.4686 48 5.2114
17 2.5986 49 5.2500
18 2.7257 50 5.2857
19 2.8500 51 5.3186
20 2.9714 52 5.3486
21 3.0900 53 5.3757
22 3.2057 54 5.4000
23 3.3186 55 5.4214
24 3.4286 56 5.4400
25 3.5357 57 5.4557
26 3.6400 58 5.4686
27 3.7414 59 5.4786
28 3.8400 60 5.4857
29 3.9357 61 5.4900
30 4.0286 62 5.4914
31 4.1186

図2 授時暦の月の限数の動き
注:平均黄経度との差である躔差の計算式は,躔差(度)=限数 x (124 - 限数) / 700
  象限は疾初,疾末,遅初,遅末の順序で連続する。疾初0から数えた場合の限数を,
  疾末は限数124を0として逆方向に数える。遅末も限数248を0として逆方向に数える。
  遅初と遅末は符号が負となる。符天暦の限数は1日9限。
  限数は違うが授時暦の月の立成の考え方は符天暦にならっていることがわかる。


2020/12/26 掲載
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